2010年07月02日

日本サッカー界が得たもの(2010年W杯総括)


■すばらしい結果を出した日本代表

日本代表の2010年ワールドカップが終了した。

結果は皆さんご存知の通り、予選リーグを突破しての「ベスト16」だったが、現実的な目標値をクリアするすばらしい結果だったと思う。

正直なところ本戦前の状況から考えれば、これはあり得ないほどの成功であり誇るべき結果だろう。

大会中、大会後の(試合に出て結果を出した)選手たちのポジティブな感想を聞いていても、今回のチームが一戦一戦進歩し、良い状態をキープしていた様子が伺えた。


■ポゼッションサッカーから守備的システムへ

大会前にあれほど苦しんでいたチームがなぜこれほどの結果を出せたのだろうか?

もっとも大きな理由は、本田を1トップ、阿部をアンカーに置くシステム変更とゾーンで守る事を徹底した戦術的な変更がある。

本戦前までの日本代表は中村(俊)を中心としたショートパス主体のポゼッションサッカーを志向していた。右サイドの中村(俊)、内田という攻撃に特徴のある選手の仕掛けからチャンスを作り得点するという事をひとつの武器としていたが、本番を前にこの二人のコンディションが上がらず、結果守備力の低い普通の選手となってしまっていた。

守備に穴がある状態では世界レベルのチーム相手では勝ち目が無い事を、国内最終戦である韓国戦の惨敗で認識した岡田監督は、本戦まで1ヶ月を切った時期にもかかわらず、3バックやアンカーを置く守備的システムの模索を始めた。

その後のイングランド戦、コートジボワール戦で阿部をアンカーに置く4−1−4−1システムの採用と、低い位置でのゾーンディフェンスからのカウンターという、”失点しない事”を第一目的とした戦術で、ある程度守れるという感触だけは得ることができた。

しかし、得点を取らなければ勝てないのがサッカーだ。

一人の能力で点を取れるような、特別なFWがいない日本代表では、今まで、より多くのチャンスを作り出す事で得点の確率を上げようと試みてきた。その為のポゼッションサッカーであり、決定的なチャンスを作れる中村(俊)だったはずだ。

中村(俊)を外し、ポゼッションを捨て、ボールを奪ったらカウンターというチームに生まれ変わりながら、特別なFWがいない新しい日本代表は、サイドに大久保、松井という運動量もありスピードのある選手を配置する事で、チャンスを作る事を考えた。しかし、大久保・松井がサイドを駆け上がりチャンスを作るためには、どこかでその為の時間を作らなければならない。

普通であれば、1トップにボールをキープできるポストプレーヤータイプのFWを配置し、そこで中盤の選手が上がるための時間を作りたいと考えるはずだ。しかし、岡田監督が選んだ23人にはその様なタイプのFWは選ばれていなかった。

結果、新しいシステム、戦術を機能させるために不可欠なポジションは、23人のなかでもっともフィジカルが強く、決定力のある本田が務める事となった。

本田がこのポジションとなったもうひとつの背景としては、守備的なシステム変更により、中盤に本田が入るポジションが無くなってしまった 事があげられる。


■1勝の重み

初戦のカメルーン戦で勝利しなければ、おそらくグループリーグを突破することができない。勝利が絶対条件というプレッシャーの中で日本代表は結果を残すことに成功した。

カメルーンの調子がそれほど良くなかった事が最大の理由だったと思うが、それでも日本の守備戦術は良く機能しており、得点のシーンも日本が思い描いていた形でのものだっただけに選手たちは”やれる”という自信をつけたのではないだろうか。

特に攻撃では、松井、大久保、本田がそれぞれの役割をキッチリとこなし、流れの中から得点まで取ったのだから文句のつけようがないものだった。

ここでの1勝があったからこその、ベスト16だった事は間違い無い。


■積み上げてきたもの

今回の日本代表を見ていると、何もかもがうまく噛み合っていた印象がある。

特に特筆するべき点は

◎ケガ人や出場停止などの選手がでなかった。

◎高地での試合が多かったが高地対策がうまくいっていた。

◎各国が苦労していた公式球”ジャブラニ”をさほど苦にしなかった。

◎ベテランや控え組がうまくチームを盛り上げてくれた。

◎目標設定を「ベスト4」としていたことで、決勝トーナメント進出後にも気の緩みが出なかった。

◎ゲーム中に試合を決定づけるようなチョンボが無かった。



ケガ人や出場停止選手が出なかった点については運の要素もあるが、それ以外の項目については、ここまで日本代表が積み上げてきた過去の経験を、監督・選手・スタッフ・その他の関係者が重要視し共有できていたという事を証明するものだ。


■日本サッカー界が得たもの

今回の日本代表は、途中まではオシムさんが作ってきたものをベースに発展させようとしたものだったが、最終的には日本人だけで工夫して考えて作ったものになった。

私は岡田監督が日本代表監督になることには最初から反対だったし、今でももっと良い選択肢はあったはずだと思っている。

岡田監督は、最終的に結果は出したが、もう少し早く日本代表と世界との力関係を把握する事は可能だったと思うし、そのための準備や選手選考などにも時間をかける事が可能だったはずだ。

開き直りの一夜漬けテスト勉強でたまたま結果が出ただけと言われても反論は出来ないのではないだろうか?

だが、より良い選択はあったにせよ、今回オール日本人スタッフでワールドカップを戦ったことにも意味や成果はあり、今後の日本サッカーの発展を考えると今回の経験はかけがえのない財産になったような気がする。

一番の成果は、”日本サッカー界の現在地がわかった事”ではないだろうか。

日本サッカーは、多くの外国人指導者や外国人選手などの指導により急速に発展してきた。世界で勝つための多くの方法やメンタリティが取り入れられ、その都度トレンドを変えながら多くの事を吸収してきた。

その多くは選手に還元され、多数の選手の海外進出を進めた。そして個々の選手が世界的に見ても価値があり、通用するという感覚を得る事ができたのだ。

しかし、これまでの日本代表では個々の選手のレベルアップがチームにうまく還元されず、その理由がどこにあるのかもぼやけていたような気がするのだ。

ある監督は、「日本人には守備の文化が無い」と言った。
ある監督は、「フィジカルが弱い」と言った。

日本人としての強み、弱みを理解してチームを作ろうとすれば、最後にこんな言い訳は出てこないのではないだろうか?。

すべて日本人で作り上げた今回の日本代表は、スペクタクルなチームでも攻撃的なチームでもなかった。試合の内容は、日本人で無ければ退屈だと批判されるものだったかもしれない。しかし、予選リーグを突破し、決勝トーナメント1回戦を引き分け、(PKというルーレットのようなもので運悪く負けてしまったが)限りなくベスト8に近づいたのは事実だ。

これは全員が日本人だったからこそ、日本人の強さ・弱さを理解していたからこそ成し遂げられた快挙だと思う。

今現在、日本サッカー界が世界のどの位置にいるのかは今回のワールドカップでわかった。だからこそ、日本サッカー界に関わるすべての人たちは、ここから、世界のトップを目指すために何が足りなくて、何を強化しなければならないのかを真剣に考えなければならない。


今回の日本代表はサッカーのすばらしさをたくさんの人たちに伝えてくれたし、日本人が本来美徳とする献身・努力・思いやりなどを改めて考えさせてくれたという意味に置いても価値のあるすばらしいチームだったと思う。

PKのような不条理なかたちで散ってしまった事は少し残念だったが、それはそれで日本らしい美しい散り方だったと思えてならない。

記録とともに記憶にも残る美しい散り方だった。
posted by Ryon at 13:02| Comment(5) | TrackBack(0) | 日本代表2010 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントします。
等身大の日本代表すばらしかったです。
オシム時代は中心選手だったものの、個性的なレギュラーメンバーの中では地味な存在だった駒野選手が、クローズアップされる結果になったのも花をそえたとおもいます。
本田はこの大会が転機になるでしょう。

私は攻撃的なサッカーで点を取りにいって、取れたら自信を得て、取れなけくても打ち合って向き合うことで世界との差を感じられればいいと思ってました。

しかし大会前から批判されて、チームが現実に向き合って議論して、監督を中心に団結してちゃんと調整して結果を出しにいけたのも日本人監督だからできたことで非常に良かったとおもいます。

PKは相手のクセを調査できていたら、プロフェッショナルだったでしょうが、4年前と比べたら長足の進歩。
ここで敗れたことで等身大の自信を得ることができたとおもいます。


これからどうするかは非常に難しいですね。
いろんなスタイル、方法がありますからね。
これまでのようにポリシーのある人に任せるのか。
あらゆる方法スタイルに通じていて、現実的なチーム作りのできる人がいればいいですが。
同じ監督がずっとやってくれたほうがいいですね。
人は老いてくし、後進も育てたいですかね。


Posted by CSKA352 at 2010年07月07日 22:14
CSKA352さん
コメントありがとうございます。
今回のW杯では、まさに等身大とよべる日本代表が見れました。

今現在の日本人の持っている知恵や経験だけでも、ここまではこれるという事が証明されたことは、新たな一歩を踏み出すためにも良かったのではないでしょうか。

理想と現実のギャップを明確に意識できた後だけに、今回の経験を生かして未来につなげるには、今後どのような方針で日本代表を強化するべきか
悩ましいところではありますが、私個人としては日本人の特徴を攻撃に生かせるようなチームをつくれる指導者に替わることに期待します。

とは言うものの、今回のような統制の取れた守備も美しかったとは思いますので、今回の日本代表をベースに、より攻撃力を高めるようなチーム作りも有りと言えば有りですね。その路線で行くのであれば、イタリア人監督なんてのもありかなとか思います。(まあ無いでしょうが・・)

蛇足ですが、今期からユベントスを指揮するデル・ネーリが昔キエーヴォで見せていたようなスタイルを日本代表で見てみたいとかなり前から思っていました。
Posted by Ryon at 2010年07月08日 01:18
日本はいろんなスタイルにコロコロ変わってきたんで、いろんな可能性がありますね。
いい事なんだけどいつまでも定まらない。
ファンとしてはそれを楽しんでますし、個人的には色々なスタイルへの理解も深まりました。

セリエがお好きでしたか。
ナカタがいた頃は見てました。
キエーヴォも少し覚えてます。4-4-2の高いラインを保って、サイドから攻めてましたね。
イタリアは攻めが速いんで、ライン上げてもリスクは少ないですね。
ボールを追いかける感じのゾーンDFなんで日本代表だとトルシェが一番近いといえるかもしれません。

私はクライフのバルサとか好きでした。
オシムにはそういうサッカーを期待してたけど、違ったのかな。

全盛期のジュビロなんかが日本オリジナルで良かったですね。
Jで変わらぬ安定を誇る鹿島を超えるチームが再び出てくることが日本サッカーの発展になると思うのでそちらに期待ですね。
個人レヴェルで世界に出て行くのも良いこと。
特に守備陣は質が高いことが分かったので出て行く価値はあると思います。
Posted by cska352 at 2010年07月08日 13:30
残暑見舞い申し上げます。
いやあ、イタリア人監督来ましたね。

>今回の日本代表をベースに、より攻撃力を高めるようなチーム作りも有りと言えば有りですね
 
ryonさんの先見当たりそうですね。
ザックはミランやウディネーゼの頃の印象が強いです。攻めは3トップで守りは3バックになる4バックでバランスを取る感じ。

ユヴェントスにはCSKAからクラシッチが加入しました。ロシアとイタリアのサッカーは少し似てるので注目です。
Posted by cska352 at 2010年09月01日 21:19
いやーイタリア人監督来ましたねー。
原さんは本当はスペイン路線で行きたかったのでしょうが、でもW杯の岡田監督からの流れを生かすのであれば最良に近い選択だったのではないでしょうか。

どんな感じになるかまだわかりませんが、ザッケローニさんが「バランス」という言葉を多く使っていたところには好感を持ちました。

新しい日本代表も楽しめそうです♪
Posted by Ryon at 2010年09月02日 01:01
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